こだいらぽんたの「基礎学力」勉強日記

基礎学力(高卒程度)を身につけたい。読書も旅もしたい。フットボールも見たい。

「16世紀のフランス宮廷の姿がわかる小説。他人がうっかり落とした恋文を回し読みする貴族たち」 読書ノート ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』(永田千奈訳)229日目~230日目

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ラファイエット夫人著『クレーヴの奥方』(永田千奈訳 光文社古典新訳文庫)

この本を読めば、16世紀のフランス宮廷がどんなところだったかわかる。みんなヒマだから、他人のウワサ話ばかりだ。誰かがポケットから恋文を落としたら、「この手紙は××公のポケットから落ちたものですのよ!」とみんなで回し読み。「誰からもらったのかしら、筆跡に覚えはない?」と王太子妃まで一緒になって大騒ぎしてしまう。当時、他人の手紙を勝手に回し読みすることは恥でも何でもなかったらしい。

それに男も女もびっくりするほどおしゃべりだ。結婚していても愛人を持つことは普通だったらしい。それを、黙っていればいいのに、他人に話したがる。そして無用なトラブルを招く。

また、フランス王家の人間関係も伺い知ることができて面白い。アンリ2世の妃カトリーヌ・ド・メディシスはイタリアの名家メディチ家出身だ。「彼女は王妃で、しかもイタリア人ですよ。猜疑心が強く、嫉妬深く、気位が高い」(P168)などと陰口をたたかれ、しかも夫であるアンリ2世は愛人のヴァランチノワ侯爵夫人に夢中だ。息子の嫁であるメアリ・スチュアートとも仲が悪い。孤独でかわいそうな人なのだ。

アンリ2世の愛人ヴァランチノワ侯爵夫人は、なんとアンリ2世の父親であるフランソワ1世の愛人でもあった。どうして父王の愛人が息子の愛人でもあるのか?いきさつはこうだ。

王位を継ぐはずだったご長男がトゥルノンで亡くなると王は深い悲しみに沈みました。毒殺されたという噂もあったのです。現王のアンリ様に対し、先王はご長男に示したような愛情も親密さも、おもちではありませんでした。勇敢さに欠け、軟弱なところがあると思われていたようです。ある日、先王がヴァランチノワ様に、アンリ様について愚痴を言ったところ、ヴァランチノワ様は、それなら私が王太子を誘惑してみましょうとおっしゃいました。恋をすればアンリ様も少しは前向きで愛想の良い性格になると思われたのでしょう。(P62-63)

「息子が軟弱でどうしようもないんだ」という男の愚痴に、「じゃあ、私があなたの息子を男にしてあげましょう」と答える愛人。どういう会話なんだろう?しかもフランソワ1世は、自分の愛人が息子の愛人になってしまったことに嫉妬や憎しみを感じていたというから、もうわけがわからない。 

さて、主人公のクレーヴ夫人に話を移す。この本は、恋を知らずに人妻となった彼女と、宮廷の貴公子ヌムール公とのプラトニックな恋愛の物語だ。クレーブ夫人は王太子妃メアリ・スチュワートの親友でもあり、美貌と気品にあふれ、彼女一筋の優しい夫を持ち、大金持ちでもあり、何から何まで手にしている最強の女性に見える。

彼女の唯一の弱点は、他人の嫉妬心がわからない点にある。ヌムール公に恋心を抱くクレーヴ夫人。妻がヌムール公に惹かれているのではないかと怪しむ夫。ある日、夫に「あなたは誰かほかに好きな人がいるんじゃないか」と問い詰められ、クレーヴ夫人は本当のことを告白してしまうのである。でも、なんとなく相思相愛気分を味わっているだけで、ふたりきりで会ったことはない。「私の感情のせいであなたが不快な思いをなさるのなら、何度でもお詫び申し上げます。でも、私の行為のせいであなたを苦しめることだけはないはずです」(P191)とはいうものの、こんな理屈を夫が受け入れられると彼女は思ったのだろうか。おそらくクレーヴ夫人は「いい人」すぎて、他人に嫉妬しないタイプなのだろう。自分が嫉妬しないから、他人の嫉妬心がわからない。最後に「あなたのせいで嫉妬という感情を知りました」とヌムール公に言っているが、本当だろうかと疑ってしまう。

夫は妻の告白にものすごく苦しむ。苦しんで、結局は死んでしまう。悲しみに暮れるクレーヴ夫人のところにヌムール公が恋の告白にやってくる。そこで、相思相愛だったことが初めて二人の間で確認されるわけだが、クレーヴ夫人は夫に対する贖罪の気持ちが大きすぎて、ヌムール公の愛に応えることができない。彼女はヌムール公には二度と会おうとせず、宮廷にも戻らず、一年間の半分を修道院で暮らし、残りの半分を自邸に引きこもって暮らす。

こうした彼女の姿を「稀に見る貞女の鑑」だと小説は締めくくっているが、おそらく彼女は夫を愛していたことに気が付いたのではないかと思う。自分のことを誰よりも大切にしてくれたクレーヴ公への愛情が、ヌムール公への恋心に勝ったのではないか。

優れた小説は、さまざまな読み方が可能になる。

 

今回で50作品中、3作品目のレビューを挙げた。まだまだ先は長い。 

kodairaponta.hatenadiary.jp

 

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