こだいらぽんたの「基礎学力」勉強日記

基礎学力(高卒程度)を身につけたい。読書も旅もしたい。フットボールも見たい。

「恋はそれぞれ、その当事者に似る」 読書ノート ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(3)ー美しい季節Ⅰー』 261日目~266日目

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ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(3)ー美しい季節Ⅰー』(山内義雄訳 白水Uブックス

 

「美しい季節」には、登場人物たちのそれぞれの恋の物語が書かれている。表題の「恋はそれぞれ、その当事者に似る」は、巻末の店村新次氏の解説による。まさにその通りではないだろうか。

ジャックとアントワーヌがふたり暮らしをするようになってから5年がたった。ジャック20歳、アントワーヌ29歳。

この「ふたり暮らし」の件だが、どうやらふたりは父親と同じ建物に住んでいるらしいのだ。チボー氏は上の階、ジャックとアントワーヌは下の階。同じアパートでありながら、別々の部屋に住んでいるということか?チボー氏は地元の名士で金持ちなので、ものすごい豪邸に住んでいるのかと思いきや・・・それともパリでアパートに住んでいるといったら金持ちに決まっているのだろうか。なかなか具体的に絵が浮かんでこなくて困る。

 

3.美しい季節Ⅰ

チボー家の人々』第3巻のあらすじを紹介する。

ジャックは少年園を出てからの5年間、必死に勉強した。そして、フランス全国の秀才が集う高等師範学校(エコル・ノルマル)に第3位の成績で合格するのだ。祝福してくれる友人たち。しかし、ジャックは喜び半分失望半分の複雑な気持ちだ。ジャックの胸の中に燃える思いはいつも「ここじゃないどこかへの脱出」だ。

 

ダニエルら友人たちは、ジャックの合格祝いをしようと「パクメル」というナイト・バーへ繰り出す。親友のダニエルは画家になった。彼は美術商リュドウィクスンの手によって個展を開き、作品にも顧客がついている。リュドウィクスンの出す美術雑誌の仏文欄も手掛けている。イケメンのダニエルは、父親の血を引いたせいか、隙あらば女の子と付き合っている。ナイト・バー「パクメル」は、ダニエルが女の子を「お持ち帰り」する社交場なのだ。ジャックはダニエルのことを「美男子だなあ」と見ほれつつも、ダニエル御用達の社交場に居心地の悪さを感じる。

 

一方、兄アントワーヌの方には一大事が降りかかる。父親の秘書をやっているシャール氏の娘(血のつながりはない。同居している「ばあや」の姪っ子で、シャール氏が娘のようにかわいがっている。)が車にひかれたという。アントワーヌがシャール氏の家に駆け付けると、娘は瀕死の状態だった。すぐに病院へ運び込むことを提案すると、「いやでございますよ」とひとりの老婆に拒絶される。シャール氏の母親だ。「私たちはめいめい自分のベッドで死んでいきたいんです。病院なんてまっぴらですよ」

言い返したいのをぐっとこらえ、アントワーヌは考える。このままでは死んでしまう。仕方がない、ここで手術をしよう。

だが、これはアントワーヌの人生初の大手術となった。この手術のシーンがとてもリアルだ。部屋のあらゆるものを工夫して手術室を作り、彼より一足先に来ていた若い医者や近所の女性を助手にして、テキパキと指示を送る。そして、アントワーヌはついに大手術を成功させる。先ほどまで頑なな態度を取っていた老婆は尊敬のまなざしでアントワーヌを見つめ、助手として頑張ってくれた若い医者はアントワーヌのことを「メートル(大先生)」と敬う。アントワーヌとしても悪い気はしない。

そして、同じアパートに住んでいるという縁だけでアントワーヌのにわか助手になってくれた女性、ラシェル。彼女はユダヤ系の美女で、今までアントワーヌの周りにいなかったタイプの女性だった。

しかし、自分が自由であることをラシェルは何度も強調する。

「このあたしは、ぜんぜんおとなしいお友だちとか、気のゆるせる恋人なんかになれる資格はありませんの。あたし、どんなでたらめでもやってのけたいと思っていますの。どんなでたらめでも。そのためには自分が自由でいなければ。だから、あたしは自由でいたいんですの。わかって?」(P160-161)

しかし、アントワーヌはへこんだりはしない。彼は、これはと思ったものをあきらめた経験がなく、敗北をしたことがなかった。相手の立場や気持ちがはっきりわかってしまえば、取るべき対策がわかると自信満々なのだ。恋愛の駆け引きですら合理的に考えるところが、アントワーヌの面白いところだ。ふたりは恋に落ちる。

 

アントワーヌはラシェルと深い関係になったことについて、ジャックに得意げにしゃべる。しかし、心の中で純真でいたいと思っているジャックは不愉快な気持ちになる。フォンタナン家に兄と訪れたときも、居心地が悪く、ずっといらいらしっぱなしだ。第2巻でフォンタナン家に転がり込んできた少女ニコルは、ドクトル・エッケと婚約して幸せいっぱいだ。フォンタナン夫人の人当たりのいいおしゃべり、ラシェルとの情事について放埓な打ち明け話をしたくせに、夫人の前では常識的に人当たり良く振舞って見せるアントワーヌ。ジャックは彼らを見ていると、なぜかいたたまれない気分になってしまう。

 

だが、ジャックと同じような感性の持ち主がいた。ダニエルの妹、ジェンニーだ。彼女は19歳。ダニエルとともに家出をしたジャックをジェンニーは恨んでいる。それは兄を奪ったことに対する嫉妬心からだ。

しかし、第3巻の終わりで、彼らの距離はぐっと近くなる。ジャックはテニスクラブの帰り道、ジェンニーに、自分が立会人となったバタンクールの結婚式の話をする。彼はジャックの友人で、14歳も年上の未亡人で連れ子のいる女性と結婚した。この結婚にバタンクールの家族は反対し、結婚式に親族は誰一人出なかった。祝電すら一通も届かない。バタンクール側の友人はジャックひとりだった。

彼の話を真剣に聞くジェンニー。ジャックは「おそらく彼として初めての、そして、きわめて濃厚な喜びの気持ち」を味わう。ジェンニーはジェンニーで、ジャックが自分が考えていた人間ではなかったことに気づく。

 

彼女は、ジャックの眼差しの中に、反感を催させるような粗野な重厚さの見えないこと、しかも、明るい、敏捷な、表情に富んだ彼のひとみが、そのときちょうど、澄みわたった水のように思われたことに気がついた。

《どうしてこの人、いつもこんなでいないのかしら?》と彼女は思った。(中略)そしておそらく、彼にあっても彼女にあっても、その楽しみは、ふたりがたがいにひとりだけでないということから、さらにかき立てられていたにちがいなかった。(P215-216)

 

ふたりは似た者同士だ。だが、ジェンニーはどうしても素直になれない。ジャックに興味を持っている素振りさえも見せたくないのだ。誰にも自分の領域に踏み込まれたくないという純情さと頑固さのためだろうか?ふたりはまだまだ近づくことはできない。(第4巻につづく) 

 

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