こだいらぽんたの「基礎学力」勉強日記

基礎学力(高卒程度)を身につけたい。読書も旅もしたい。フットボールも見たい。

「人間の行動なり意思決定には、自ら選び取れるものは案外少ない」 読書ノート ロジェ・マルタン・デュ・ガール著 『チボー家の人々(5)ー診察ー』 277日目~279日目

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ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(5)ー診察ー』(山内義雄訳 白水Uブックス

 

前巻から3年の月日がたった。時は1913年。アントワーヌ32歳。第5巻は医師として充実した日々を送っているアントワーヌの一日を切り取った巻となっている。アントワーヌの自宅兼診療所には、診察を求めて次々と患者が訪れる。この巻にはジャックは登場しない。難関エコル・ノルマルに優秀な成績で合格したにもかかわらず、学校には行かず、そのまま行方不明になっているというのだ。なぜ再び家出をしてしまったのか。この巻ではまだ明らかにされていない。

 

5.診察

チボー家の人々』第5巻のあらすじを紹介する。

上記のとおり、この巻は精力的に働くアントワーヌのある一日を描写したものである。平和な日々。だが翌年には第一次世界大戦が起こることを誰も知らない。

アントワーヌが診察した患者を時系列に並べる。

・ロベール(15歳)とその弟(13歳)。ふたりに親はない。弟は印刷工場でこしらえた傷口が悪化してわきの下まではれ上がっている。アントワーヌに診てもらいたい一心で訪ねてきた。アントワーヌは弟の傷口を切開してやり、手当てを施してやる。

・チボー氏。頑迷だったアントワーヌの父親(78歳)は癌に犯され、病床に伏している。看護婦のセリーヌがかいがいしく世話をしてくれている。

・エッケとニコルの娘(2歳)。急性耳炎からさまざまな併発症が起き重体。アントワーヌは、師匠のフィリップ博士とともにエッケの自宅に訪れるが(この娘だけ往診に行っている)、もう助からないと判断する。

・ユゲット(13歳になるかならないか?)。バタンクール夫人の娘。結核の兆候があらわれている。いずれ現れてくるであろう骨格の炎症、カリエス性の脊椎崩壊のことを考えて、向こう何か年かはギプスをはめなければならないだろう。

・リュメル(40歳過ぎ)。外交官。なんの病気かはっきり書いていないが、体にかなりの痛みを抱えている。今まで不和だったドイツとオーストリアが急接近しつつある外交の内情を話す。ヨーロッパ全土は自動的にバルカン紛争に巻き込まれるのではないか?と。第一次世界大戦がすぐそこまで迫っていることがうかがえる。

・ジゼール(19歳)の部屋。彼女は患者ではない。『チボー家の人々』の読書ノートでははじめて触れるが、ジゼールはチボー家の家政婦ヴェーズ嬢の姪っこである。両親を亡くしたジゼールをヴェーズ嬢はチボー家で育てた。アントワーヌやジャックにとっては妹のような存在だ。

だが、今やアントワーヌはジゼールを女性として意識しており、彼女に求婚している。しかしジャックを愛しているジゼールは首を縦にふらない。彼女はジャックがどこかで生きていると信じているのだ。

・エルンスト氏(60歳くらい?)とその子供。エルンスト氏は、子供の言語障害が、自分が以前かかった梅毒によるものなのではないかと考え、妻にも打ち明けられず、ずっと苦しんでいたことを告白する。アントワーヌは一笑に付す。「じつにばかばかしい限りです!」と。エルンスト氏の無限の感謝のまなざしに、アントワーヌに歓喜の感情がわきおこる。

・再び、ロベール少年とその弟。エッケの家に行く途中、彼らの様子を見に行く。弟はすっかり元気になった模様だ。

・エッケの家。2歳の娘は断末魔の苦しみにあえいでいるのに、死はなかなか訪れない。エッケ夫人(ニコル)は疲労困憊だ。

エッケは友人ステュドレルとともに「なんとか・・・なんとかしてやらなければならん。このまま苦しませて何になろう?」とアントワーヌに訴える。自分の娘を安楽死させてくれないか、と。

アントワーヌはこの頼みを突っぱねてしまう。だが、なぜ突っぱねたのか?アントワーヌは自分の選択が何によってなされたのか、自分自身に問いかける。苦しみながらさまざまな思索をめぐらすが、その答えは見つからない。

《おれは生きている》と、彼は考えた。《これこそはひとつの事実だ、言葉をかえて言えば、おれは不断に選択し、行動している。よし、だが、ここからやみがはじまっている。すなわち、その選択なり、その行動なり、それははたして何の名によってなされるのか?》(P141-142)

アントワーヌは自宅に帰る。台所では雌猫が絶望的な声で鳴いていた。彼は今朝、家番の息子レオンと交わした会話を思い出す。雌猫が7匹も子猫を生んだ。1匹は姉が欲しがっているという。だが、あとの6匹は・・・。

アントワーヌは、くずかごの中をのぞいてみた。からっぽだった。

《いいか、みんな水につけて殺しちまうんだ》自分がそう言いつけたのではなかったろうか?しかも、これまた生き物にちがいないのだ・・・どこに区別の理由がある?いかなるものの名において?(P153)

 人間は自分の意志で決定し、選び取ることができるものは案外少ないのではないだろうか。何かを決定するとき、それは「いかなるものの名において」なされるのだろうか。

帰宅したアントワーヌの元には伝言があった。エッケの娘が亡くなったという。

 

150ページ足らずの短い巻だったが、読みごたえがあった。次巻では、ジャックが何を考えて家を出たのか、手掛かりをつかむことができる。

(第6巻につづく)

 

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