こだいらぽんたの「基礎学力」勉強日記

基礎学力(高卒程度)を身につけたい。読書も旅もしたい。フットボールも見たい。

「死ぬのはこんなにも大変なことなのか?」 読書ノート ロジェ・マルタン・デュ・ガール著 『チボー家の人々(7)ー父の死ー』(293日目~297日目)

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ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(7)ー父の死ー』(山内義雄訳 白水Uブックス

 

人は誰でも死ぬ。死ぬときは安らかに、眠るように死んでいきたい。ところが、思い通りにいくとは限らない。チボー氏の苦痛に満ちた最期は地獄絵そのもので、周囲の人間は「はやく終わって!」と祈ってしまう。人はなかなか死ねないのだ。「死ぬって大変なんだな」と思わずにはいられない。

 

7.父の死

チボー家の人々』第7巻のあらすじを紹介する。

チボー氏は尿毒症の発作に襲われ、耐えがたい激痛に七転八倒する。ヴェカール司祭は死の恐怖を和らげようと穏やかに話をするが、チボー氏の頭の中は「生きていたい!」という思いしかない。自分は利己主義と虚栄心の中に生きていた。すべてをやり直したい。いまさらそれはかなわないのである。

ジャックがアントワーヌとともに家に到着したときは、チボー氏は激痛のためにベッドで大暴れをしていた。やっと神経発作が収まったとき、ジャックはチボー氏に声をかける。

ジャックは、手首に力を入れながらからだを起こした。そして、咽喉を締めつけられながら、機械的に、つぶやくように言った。

「お父さん?・・・え?・・・お父さん、いかがです?」

チボー氏のまぶたは、ゆっくりおろされた。気がつくかつかないくらいのふるえが、その下唇とあごひげとを動かした。つづいて、次第次第にはげしさを加えるふるえが、顔を、肩を、上半身をゆりあげた。父はむせび泣いていたのだった。(P42-43)

 

排泄が止まったため、アントワーヌはモルヒネ投与をやめた。モルヒネを打てば、父親を殺すことになる。だが父親の苦痛はますます激しくなるばかりだ。顔は真っ赤になり、目は裏返しになり、四肢は硬直し、身体は弓なりになっている。翌日、病人の顔はけいれんとむくみで全く変わってしまっていた。気分転換になるならと、みんなで力を合わせて入浴をさせてやるが、チボー氏の安息は長くはもたない。チボー氏の看護には、アントワーヌとジャックをはじめ、看護婦や女中たちや秘書がかわるがわる交代であたるが、みんなへとへとである。いつまでこの状態が続くのか?呼吸発作に襲われる。目は眼窩から半分出ている。苦痛で狂乱状態になるチボー氏の手足に、みんなでしがみつかなければならない。この地獄絵はいつまで続くのか?

ついにジャックが声をあげる。「兄さん、なんとか考えてくれないか!」と。アントワーヌは決断する。彼らは父親モルヒネを打ち、安楽死させることを選ぶのだ。

父親の臨終後、アントワーヌは「おれがやったんだ」と心に繰り返す。そして「いいことをした」とも思うのである。彼は、安楽死を患者にもたらすことは絶対に踏み越えてはならない医者の掟であることを知っている。その掟を意識して踏み越えた自分を、アントワーヌはあえて是認する。そうするしかなかったのだ。

 

その後、アントワーヌは父親の遺言書に目を通す。なんと遺言書には、妹同然に育ったジゼールをはじめ、女中たち、家番、別荘の植木屋、誰一人として書き忘れられてはいなかった。あの強欲な老人が?アントワーヌはチボー氏の寛容さに驚く。

さらに、残された書類の中には、彼が9歳のときに亡くなった母親と、若かりしチボー氏が交わした愛情あふれる手紙も残されていた。また、チボー氏のメモ書きによれば、母親が亡くなってから6年後、恋心を抱いた女性がいたらしい。アントワーヌは「ひとりの人の一生には、世間の人にはわからないほどの大きさがあるのだ」と感じる。

 

チボー氏の葬儀はクルーイで盛大に行われた。参列者はチボー氏の同僚や、慈善団体の代表者たち。近親者はアントワーヌだけだ。(親戚はパリの葬儀の方に出たらしい。葬儀を二回もやったのだろうか?)

ジャックはその日、午前中を家の中で過ごしていた。だが、突然じっとしていられなくなり、クルーイ行きの列車に乗り込む。葬儀が終わっていれば、自分を知っている人間と鉢合わせする恐れがなくなるからだ。

クルーイに降り立ったジャックは、花輪が高く積まれている墓の前に立つ。そして、さまざまな感情に胸をかき乱される。

彼は、若き日の自分を少しずつ毒していった怒りの気持ちのこと、侮蔑や憎悪の気持ちのこと、復讐や希望のことなどを思いおこした。いく度となくはねかえるたまのように、いままで忘れていたさまざまなことが思いだされて、それに心を刺しつらぬかれた。彼は、しばらくのあいだ、あらゆる恨みを忘れ、子たるものの本能にかえって、父の死にたいして涙を流していた。(中略)

だが、いつも物事をま正面からながめずにはいられない彼は、こうした悲しみ、こうした悔恨のもつ不条理を、たちまち見破られずにはいられなかった。彼ははっきり、もし父にしてこのうえ長く生きていたら、おそらく自分として彼を憎み、ふたたび逃げだしたであろうことを知っていた。(中略)彼は、何かしらはっきりしないこと・・・もしそうであってくれたらといったようなことを考えながら、それをざんねんに思っていた。彼は一瞬、柔和な、寛容な、理解力のある父さえも想像していた。そして、そうした慈愛深い父にたいし、一点非の打ちどころのない息子になれなかった自分を、ざんねんに思ってもみたかった。(P210-211)

 

アントワーヌは父を愛していなかったし、ジャックも父を愛していなかった。ところがこの三人は分かちがたい絆で結ばれている。チボー氏の死に対して、心の底から涙を流したのは、アントワーヌとジャックのふたりだけだった。親子の間には好きだとか嫌いだとかいう感情を超えた何かがある。仕方がない。

 

第8巻は第一次世界大戦前夜だ。アントワーヌは医者として日々の義務を淡々とこなしている。一方ジャックはジュネーブの革命家集団の中にあって、なんとか戦争を避けることはできないかと焦りを募らせる。 

 

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