こだいらぽんたの「基礎学力」勉強日記

基礎学力(高卒程度)を身につけたい。読書も旅もしたい。フットボールも見たい。

「普通の人々が、どのように戦争に引き込まれていったのか。そのリアルさに震える」 ロジェ・マルタン・デュ・ガール著 『チボー家の人々(10)一九一四年夏Ⅲ』(228日目~232日目)

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ロジェ・マルタン・デュ・ガール著『チボー家の人々(10)一九一四年夏Ⅲ』(山内義雄訳 白水Uブックス

 

フランス国民の大多数は戦争反対だった。誰しも戦場で殺し合いなんてしたくなかった。ところがいつの間にかずるずると戦争に引き込まれ、「領土保全のためなら仕方ない」とか「正当防衛のためなら仕方がない」と考えるようになる。インターナショナルの闘士も次々と寝返っていく。そのあたりの雰囲気がリアルに伝わってくる。

 

10. 一九一四年夏Ⅲ

チボー家の人々』第10巻のあらすじを紹介する。

 

ジャックはメネストレルの指令でベルリンに向かっていた。オーストリアの将校、シュトルバッハ大佐がベルリンの陸軍省を訪れている。ジャックの任務は、シュトルバッハが持っている秘密文書を手に入れ(といっても、トラウテンバッハという盗人がうまく手に入れてくれるのだが)、ブリュッセルにいるメネストレルに渡すことだ。かなり危ない仕事だが、ジャックはベルリンを無事に通過し、秘密文書をメネストレルに渡す。

 

メネストレルはホテルの部屋でひとり、秘密文書とにらみあっていた。それは今にも勃発しそうな戦争を吹き飛ばしてしまう可能性のある爆弾だった。シュトルバッハ文書によって、ドイツ軍部とオーストリア軍部が通謀し、戦争準備を着々と進めてきた事実が明らかになったからだ。オーストリア皇帝は戦争反対。ドイツ皇帝もドイツ宰相も戦争はやりたくない。それなのに、政府の思惑をすっ飛ばして、軍部が暴走してしまったのだ。ドイツにとってオーストリア最後通牒が「寝耳に水」なんて嘘ばかり。すべては仕組まれていたのである。

この事実をインターナショナルの指導者たちが知ればどうなるだろうか。社会主義者の脅迫の前に、ドイツはオーストリアに差し出しかけた手を引っ込めるかもしれない。オーストリアはドイツの支持を失ってまで戦争をする勇気はない。そうなれば、オーストリアも外交上の駆け引きで満足せざるを得ない。世界戦争は回避されるだろう。

だが、革命家のメネストレルはこの文書を握りつぶしてしまうのである。「革命には戦争による混乱が必要だ」という信念があるからだ。その後、恋人のアルフレダがメネストレルを捨てて他の男と逃げたとき、メネストレルはこの秘密文書を焼き捨ててしまう。戦争防止の切り札は、あっけなく消え去ってしまうのだ。

 

誰も戦争なんてやりたくない。それでも「仕方がないか」と諦めが広がり、戦争に引きずり込まれていく様が、この本ではあまりにもリアルに描かれる。ジャックは戦争に絶対反対の平和主義者だ。ゼネストによって戦争拒否の意思を示すことで、なんとか戦争を阻止したい。だが、インターナショナルも一枚岩ではない。正当防衛による戦争に賛成派と反対派に別れて議論している。それでもインターナショナルフランス支部の指導者であり『ユマニテ』紙主筆ジョーレスはまだまだ元気で、戦争阻止を叫んでいる。彼がジャックの心の救いだ。

 

フランスに帰国したジャックはアントワーヌを訪ねる。兄の家では、医者仲間のスチュドレル、ロワ、ジェスランたちが戦争について議論を戦わせていた。戦争だけは絶対にやってはならないというジャックに、ロワは「敵に攻めこまれて国土を占領されても?」と皮肉を浴びせる。すぐさまドイツに、ムーズ県だのノール県だの、いろいろあげたらどうですか。ドイツが欲しがっている海への出口も添えたらどうでしょうかと。

このことばにジャックは反撃する。

労働者や鉱夫たちの大部分は、そうすることによって彼らのみじめな生活を本質的に変えられるでしょうか?そして、彼らにたずねてみたとしたら、大部分のものが、戦場での名誉の戦死などより、そのほうがいいとは言いますまいか?(P196)

僕にはよくわかっているんです。あなたは、戦争と平和とを、国家生活における正常的な振子の運動のように考えておいでです・・・おそろしいことです!・・・そうした非人間的な振子の運動、それを絶対にとまらせなければ!(中略)戦争は、何ひとつ、人間の生活問題を解決しません!何ひとつ!それは、働くもののみじめな状態を、さらにはげしくするだけなのです!(P196)

 国民の大多数は戦争なんてやりたくないと思っている。そうした個人の主張を犠牲にして、何の名において、国民に服従を強いなければならないのだろうか。

すると、アントワーヌが言う。「社会契約の名において」と。

われらは、個人としては、弱く、孤立していて、何も持っていないんだ。われらの力にしても   われらの力の大部分、そして、われらがそうした力を有効につかわせてもらえているというのも   それは、われらをまとめ、われらの活動力に秩序をあたえてくれている社会的集団のおかげなんだ。(P204)

われらはすべて国家的共同体の一員だ。(中略)これは好ききらいの問題ではない。事実の問題なんだ・・・今後人間にして社会生活をつづけていくかぎり、そうした社会にたいし、かって気ままに自分たちの義務から解放されようなどと考えることはゆるされないんだ。自分たちを保護してくれ、自分たちをその恩沢に浴させていてくれるそうした社会にたいして(P204)

 国家は個人を守ってくれる。それが都合のいいときだけ「義務を果たすのはいやだ」はないだろう、という理屈だ。

ジャックは徴兵拒否する心づもりだが、これはかなりの勇気がいることがわかる。政府に要注意人物としてマークされる恐ろしさもあるが、それよりも、自分の肉親や友人に理屈で責められることの方がつらい。

 

そして、最後の頼みの綱のジョーレスもジャックの目の前で凶弾に倒れてしまう。それはフランスに動員令が発令される前日のことだった。

(第11巻につづく)

 

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